映画館に休日のサラリーマン、きたる④ [「映画館に、日本映画があった頃」]
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映画館に休日のサラリーマン、きたる④
今回の脚本作りでは、いくつかのエピソードを交差させながら結末に収束させてゆく構成がとても難しかった。
一見、挿話の羅列に見えるかもしれないが、実はわりと巧みにシークエンスが噛み合っている。
三すくみの派閥がまずあって、一方でスパイ事件が起きて、それに耕作の愛人が絡んでいて、その事件が会社の上層まで及び、よって派閥の1つが脱落し、残る二つの派閥争いの引き金を皮肉にも工作自身か引いてしまう……
この前半の展開に、銀座のホステス典子をさり気なく登場させておき、耕作のバックボーンとしての別れた妻と娘も登場させておく。ここら辺のエピソードの出し入れは、最善を尽くしている。
この映画には一定のペースがある。よく言えば、最後まで体力を温存して余裕のゴールで締め括るマラソン走者のようなモンである。
後半においても、クライマックスらしいクライマックスはない。
普通の映画だと、2人の専務のどちらが副社長の座を射止めるかという、あの取締役会の場面がヤマ場になるのだろう。この映画では、そのシーンもかなりサラリと流されている。
監督自身が、あざといヤマ場というものが好きでないということもあるが、この映画は、全社のトップ連中を主役にした派閥抗争ドラマではないからだ。視点が島耕作という一介のサラリーマンにある以上、副社長指名に緊迫感を置くことは作品のトーンを乱すことになる。
最後まで劇的高揚感に乏しかったこの映画を、観客の皆さんは「物足らない」と思っただろうか。
自信を持っては言えないけど、10月10日の新宿ビレッジ1の最終回、休日に映画館にやってきたサラリーマンたちは、まあ楽しんで帰って行ったと思う。
>>続く
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