SSブログ

『君たちのために残したい』 [野沢コメント記事]

1998年3月25日(水曜日)、野沢自身が執筆し新聞に掲載した記事です。タイプしながら涙が止まりませんでした。


『君たちのために残したい』   
     ―僕の仕事のエネルギー源―

 
 自分以外の誰かのために仕事をするつもりなど、まるでなかった。
 常に自分のために書きたいものを書いてきた。だけど、最近は少し違う。今のこの仕事を「君たち」のために残しておきたい、と考えるようになった。
 君たちはまだ平仮名と簡単な漢字しか読めないから、僕の小説を読むにはあと数年かかるだろ。ドラマの放送時間には寝なきゃいけないから。毎週欠かさず見るというわけにはいかない。
 だけど、君たちはいつか僕の全仕事を見てくれると信じている。居間のビデオラックを占領している50本以上のビデオテープがそれだ。
 僕より背が高くなった君たちがある日、「あれ、見たよ」とぶっきらぼうに言う。「ど、どうだった?」と僕が問いかけると、「よかったよ」と君たちはボソリと答えるだけかも知れない。十分だ。それで。
 僕の書いた小説が紀伊国屋書店に何冊並ぶかより、君たちの部屋の本棚に何冊並ぶかの方が、僕にとっては重要なのだ。
 議論したければ受けて立つ。君たちの母親も交えて、4人で一晩語り明かしたっていい。
 はっきり言ってしまうと、顔も見たことのない視聴者のために身を削っていい仕事をしたいなどとはサラサラ思わない。視聴者は常に遠くにいて、視聴率というものが視聴者の顔をおぼろげに伝えてくれるだけだ。
 プロデューサーが「視聴者はこういうものを見たがっているから・・・・・」と気持ちを代弁するなら、視聴者との戦いはその辺にとどめておきたい。テレビという魔界に引きずりこまれないためには、どれだけ身近に「見せたい人」を持っているかにかかっている。僕はようやくそれに気づき、少し気分が楽になった。
 いつだったか、ある雑誌のインタビューで、自分の作品を「家族への遺書」と答えたことがある。遺書というのは君たちにとってみると重荷かもしれないけど、僕という人間については、ひょっとしたら、実際に僕と話すより、僕の作品を見てくれた方がよく理解できるのかもしれない。
 「愛について」とか「人間とは」とか、面と向かって言うのは照れる。登場人物の口を借りて、君たちに告げているだと思ってほしい。
 君たちが友情に悩んだ時、見て欲しい映画がある。君たちが恋につまづいた時に見てほしい恋愛ドラマがある。君たちが恋をかなえ、結婚をし、それでも夫婦というつながりに疑問を抱くようになったら、見てほしいドラマや読んでほしい小説がある。僕の作品が君たちの人生にとって少しでも役に立つのであれば、これほど嬉しいことはない。
 今は無理でも、いつか君たちが見てくれる。いつか読んでくれる。そう思うと、とてつもないエネルギーがわいてくる。
 今日はもう少し仕事場で頑張ってみようと思ったけど、退院して間もないことだし、盲腸の手術痕をさすりながら、君たちの待つ家に帰ろうか。


尚さん・・・・・今はまだあなたより背が小さい子どもたちですが、上の子は「龍時」を読んで「今まで読んだ中で最高の作品だ」と言っていましたよ。それと、下の娘は「ステイ・ゴールド」を読んでいましたよ。あなたに似て口数が多くないから、「どうだった?」と聞いても「うん」とだけしか言いませんでしたが、ちゃんと部屋の本棚に収まっていましたよ。
そうそう、つい先日、フジテレビで再放送していただいた「氷の世界」娘が見ていましたよ。まだ作品テーマは理解できないでしょうが、台詞の一言一言にあなたの存在を感じていたのでしょう。言い回しが似ているから・・・。大人になってまた見直したときにあなたをもっと理解すると思います。
すみません。皆さま。個人的なコメントで。
でも、野沢の記事をタイプしていたら答えてあげたくなってしまって・・・。
作品は今も多くの視聴者の心の中に、生きていると思っています。ブログにコメントするのが照れるからと、メールでコメントを寄せてくださる方も多くいらっしゃいます。それらを読んだときに私は本当に嬉しくなります。野沢の書いた台詞が支えになったり、励みになったりしてるとしたら。そこに野沢は生きてるんだって・・・。
 


2007-03-05 00:55  nice!(4)  コメント(13)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 13

さんちゃん

野沢さんの夫婦作が、3部作となる前から無意識に、野沢さんの描く夫婦像がわたしの理想とするカタチになっていました。もちろん3部作が、同じ方がかかれていることも知らずに、それでもなぜか、むしょうに描かれた姿に共感していました。親愛なるものへ、素晴らしきかな人生、この愛に生きて。 人生死ぬときまで、このダンナでよかったかはわからない。夫婦の記念日。ここを超えると地獄ですよ。愛さないといけない人が帰ってきて、愛する人が去っていく。親愛なるものへ。が第1作ということだから、夫婦作の中でも重たいセリフが胸に残っています。素晴らしきかな人生は、夫婦というより、母と娘の姿に、本当に涙しました。
ママと遥のために、この胸をとるの・・ 二人の感動的なシーンのセリフの一つ一つ、本当に野沢さんてすごいと思います。この愛に生きては、やはり、カズを返して。。。でしょうか??母親と息子・・そして、母親と父親の姿・・  すみません。。ネタばれすぎでしたら、削除してください。 またゆっくり野沢夫婦作を見返したくなってきました。わたしは、10回以上も古いビデオテープを見返していますが、本当にこれらの作品は何回見ても、感動がうすれません。本当に野沢さんのセリフ一つ一つの重みを大きくなったら、お子様たちも(いずれ、結婚し、子供を産み)理解するときがくるのでしょうね。それまで奥様。野沢さんの分まで、がんばってください。
by さんちゃん (2007-03-05 23:36) 

野沢

さんちゃんさん
ありがとうございます。
頑張ります^^
ここに書き出された台詞の一つ一つを懐かしく思い出しました。
どの言葉も大好きです。
by 野沢 (2007-03-07 11:56) 

ノリ

こんばんは。読んでて、泣きそうになってしまいました。
野沢さんの作品の全てを知りませんが、これからもひとつずつ大事に
読んで、野沢さんの伝えたかったこと、理解できたらいいなと思います。そして今は幼い我が子にも大きくなったら野沢さんの小説を読んで欲しいなと思いました。
by ノリ (2007-03-07 20:51) 

さかさねこ

 「眠れる森」を毎回見るたびに感じた新鮮な驚きと感動は今でも忘れられません。今までのドラマにない斬新な展開が多く、その時から野沢尚さんという脚本家を知り、なんてすごい人!と尊敬と期待感を抱きました。それだけに訃報を聞いた時は本当に残念でした。最近奥様がブログを書かれているのを知り投稿しました。楽しみにしています。無理されず、長く続けられるよう願っています。
by さかさねこ (2007-03-07 22:14) 

ひろし

このコラムの内容「TV人の週間日誌」に掲載されたものですね。自分も切り抜いてファイルしてありました。93年当時読んだ時に胸をうたれた思いがあります。
野沢先生の作品の文章や後書きには、ご家族のことを大事にしている内容が多かったですね。「結婚前夜」での後書きで、娘さんへの思いがとても感じられました。特に「お前が荒海で溺れそうになったら、お父さんが浮き輪を投げてやるから…」の所は心に沁みます。
by ひろし (2007-03-09 18:02) 

野沢

ノリさま
コメントありがとうございます。
そんなふうに思っていただき嬉しいです。
どの小説も最後には救いがあるように思います。
読んだあと優しくなれるような・・・。
ノリさんのお子様世代にも読んでいただけるなんて
夢のようです^^
by 野沢 (2007-03-13 21:29) 

野沢

さかさねこさま
コメントありがとうございます。
「眠れる森」は野沢の中でも特別な作品だったと思います。
それまで、連続ドラマで推理物を扱うのは無理と言われて
いました。どうしても途中で犯人が分かってしまい、12回
持たせられないと。
でも野沢は、あえて難しいことに挑戦してみようと思い、
当時フジテレビの山田良明さんに一生懸命プレゼンしたと
聞いています。
いつでも現状に満足することなく、新たなことに挑戦していく
そんな人でした。
by 野沢 (2007-03-13 21:37) 

野沢

ひろしさま
野沢のコメント記事をスクラップして下さってるなんて
感激です。
なかなかそこまでしてくださる方も少ないと思います。
ありがとうございます。
これからも、私が知らないような情報や記事コメントが
ありましたらご紹介してください^^
by 野沢 (2007-03-13 21:40) 

野沢

bintenさん

nice!ありがとうございます。

by 野沢 (2008-08-19 13:37) 

アカメガネ

泣きました。
思い出して泣けました。
野沢尚さんが身近な人に向けられた強いエネルギーを他人の僕が感じられたのだと思います。
by アカメガネ (2011-11-02 03:41) 

野沢

アカメガネさん
コメントありがとうございました。
お返事を書くにあたって、また記事を読み直してジーンとしてしまいました。
ダメですね。
思いだすと、いまだにメソメソしてしまいます。

野沢が亡くなった時には小6と中2で、小説を読むにはまだ難しい年齢でした。
そんなふたりも、今は大学生になり、私の知らぬ間に書庫から作品を持ち出しては読んでいるようです。
つい最近も、「『深紅』よんだよ」と、ボソッとつぶやいていました。
野沢の想いは、間違いなく子どもたちに伝わってると思います。
by 野沢 (2011-11-03 09:47) 

ヲヲ

たまたまこのブログ記事を拝見しました。昔、青い鳥を子供ながら映像きれいだなと思いつつ見ていました。
by ヲヲ (2017-06-22 19:58) 

野沢

ヲヲ様

コメントありがとうございます。
「青い鳥」は長野県のきれいな景色と共に始まるオープニング映像をはじめ、奇麗なシーンがたくさんありましたよね。私も大好きな作品です。

by 野沢 (2018-04-12 17:18) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証: 下の画像に表示されている文字を入力してください。

  ※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
 
韓国制作会社と合意契約Casting ブログトップ

このブログの更新情報が届きます

すでにブログをお持ちの方は[こちら]


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。