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旅のはじめに・・・・・ [「映画館に、日本映画があった頃」]

「映画館に、日本映画があった頃」 ―キネマ旬報社出版―

          

この本は、月間「シナリオ」誌のエッセイ『1700円の小旅行』、1990年9月号~1955年1月号での連載をまとめて加筆・修正して出版されたものです。
今読み直してみると、脚本作りにギラギラしていた若い頃の野沢が思い出され懐かしく読みました。今から、時々この中から選抜して紹介していきたいと思います。すでに絶版になってしまったので、ここでしか読めない記事かと思います。ある意味貴重だと思います。楽しんで読んでいただけたら、頑張ってタイプする甲斐もあります^^ (映画代金は当時の金額ですので了承ください)

1990

旅のはじめに・・・・・

 その映画は、公開前から評判が悪かった。
 教祖的なあるシンガーソングライターが初主演した映画である。
 映画館に足を運んだ。渋谷束急2のロビーは観客でいっぱいだった。女子高生とOLの列に並んで整理入場されるのはちょっと気恥ずかしかった。
 映画が始まった。
 批評家の酷評は、ほぼ当たっていたように思う。
 おそらくあの教祖的シンガーソングライターは、ヤクザ映画へのオマージュを捧げたつもりなんだろうけど、一流の撮影スタッフと助演陣をオモチヤにして気の済むまで遊んだんじやないか・・・・・。そういう印象の映画だった。
 僕にとってこの映画は、1600円の料金は高すぎた。その半額でいい。
 さて映画が終わる。画面ではクレジットタイトルがロールしている。
 お客が泣いている。
 すすり泣いている。
 場内が明るくなって、泣きはらしたお客が、ああイイ映画だったね、指定席に座ってもよかったね、と言いながら出口へ歩いていく。
 僕は愕然とする。この映画の価値について改めて考えさせられる。
 この泣いているお客たちは、この映画を製作した人々が「見に来てほしいお客」として期待した観客層に間違いない。その人々が満足して帰っていく。
 批評家はダメと言った、でもお客は満足した。製作者たちが狙った観客は、試写室で煙草を吸いながら見る批評家か? いや違う。「ぴあ」に丸印をつけてやってくる人々だ。
 映画は昔から商品だ。
 売る者と買う者が綱引きをする。
 映画の商品価値、つまり客の満足度という部分で、映画を評価する役目は誰がやるのだろうか。
 あまり批評家に嫌われたくはないけど、そういった意味で、お客に近いポジションで映画を評価できる機能は、批評家には本来備わっていないような気がする。
 だって、批評家は1600円を払わないで見る映画を価値判断するのだ。
 映画が公間になってから批評していては、彼らの仕事にならないという、単なるシステムの問題だとは思うけど。
 だけど、この自意識過剰の教祖的シンガーソングライター主演の映画を、金を払って見に来たお客と映画館で同席した時の批評家のリアクションを見たかった。
 おそらくあのオカマの批評家なら、「泣く客の方がバカなのよ」とでも言うんだろう。
 だけど駄菓子が欲しい子供に駄菓子を売ることが、そんなに悪いことだろうか。
 この映画のお客は、何もマロングラッセが欲しかった訳ではないのだ。
 チクロが入っているような毒のある駄菓子ではないし、商品としては立派に成立している。


 僕がこのコーナーで書いてみたいのは、映画館で商品としての映画と向き合った時の雑感である。
 そこで垣間見るお客の顔色も、イビキも、スクリーンそっちのけでいちゃつくアベックの生態も、映画の商品価値に繋がっていく。
 しかし僕はただの客ではない。作り手でもある。その映画のスタッフに友人がいたり、世話になったプロデューサーがいたりするかもしれない。
 観客というには、立場が多すぎるのが困ったモンだ。
 しょうがない。引き受けてしまった以上、アカデミー会員の特典も使わず、1600円を窓口に出してやろう。
 モトを取れなかったら感情的になりそうだ。
 でもその感情に、映画の関係者は文句を言わないでほしい。
 金を払った客なのだ、買った商品に何を言おうが自由だと思う。
 今から自虐的な楽しみを感じているのは、11月に公開される自分の映画を映画館で見て、このコーナーに文章を書く時だ。
 陣内孝則のファンと柳葉敏郎のファンに囲まれながら、観客として、作家として、製作現場の苦労がちょっとぱ分かっているスタッフの一員として、客観と自己弁護の間で揺れに揺れ、さぞかし混乱した文章になるんだろう。
 だけど、そうやって椎し量る自分の映画の評価だって、ケッコウ真実を突いていたりするんじやないだろうか。
<ブログでは5行削除しました> 
 という訳で、このコーナーに備えて一本映画を選ばなくてはならない。
 旬のものを選ぶとなると、あの大作映画になるんだろうけど……困ったナ。
 

 


2007-08-16 00:46  nice!(0)  コメント(9)  トラックバック(0) 
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コメント 9

yu

観たい観たいと思っていたのですが、ビデオデッキがないので観れていなかった「ラストソング」
お盆に帰省し、ようやく観れました。
この作品は、ビデオを観てから小説を読む方がいいのかな、と思いました。
ビデオもいいのですが、小説の持つ力が強すぎて。
ちなみに、私の勝手なイメージは、幻冬舎です。
シュウの隣なんておもしろいかも。
と云うような事を考えるだけでもおもしろいな。
(呼人の近くなんていうのもおもしろいかな)なんていう風にね。^^

「映画館に、日本映画があった頃」について、これから書かれたりするのですね。
図書館では、貸し出し中で読めない事もありますが、ここにくればいつでも出会える。楽しみだなぁ。
これからタイプするの本当に大変だと思います。^^
でも、確実に野沢さんの魅力が伝わると思います。
by yu (2007-08-16 13:37) 

野沢

yuさま
「ラストソング」ご覧になったんですか?^^
いいですよね~。杉田監督の映像の美しさも手伝って素敵な作品に
なってると思います。
私は、博多を旅立つ日。列車を追いかける仲間との別れのシーンで
必ず泣いてしまいます^^;それとラストですね・・・。

「映画館に、日本映画があった頃」は絶版で、きっと再販は難しいと
思います。なので、少しずつここに掲載して多くの方に読んでいただ
けたらいいかと思いました。
タイプするのはちょっと大変だけど^^;
頑張ります^^
by 野沢 (2007-08-16 22:26) 

ひろし

「映画館に、日本映画があった頃」は近くの図書館にもおいてなく、もう読むことはできないなと諦めていました。今回このような形で拝見できるなんて感謝しています。
野沢さんには大変かと思いますが、この本の内容を紹介し続けて下さい。よろしくお願いします。
野沢先生がお金を払って、映画と真正面から向き合っている感じが今回の文章から伺えます。やはり映画は批評家のようなお金も払わないで試写室で見た人間には、その映画の本質は見えないと思います。映画館で身銭を切ってこそ、その映画の本質が見えるのでしょうね。
by ひろし (2007-08-17 18:48) 

野沢

ひろしさま
コメントありがとうございます。
頑張ります^^
by 野沢 (2007-08-17 22:02) 

のりこ

初めてコメントさせていただきました。実は「親愛なる者へ」のドラマがDVDになっていないか、何年か前からたまにではありますがチェックしていたらこのブログを見つけまして・・それでおじゃましたました。
今回のブログ題とは異なってしまいますが、どうしてあの「親愛なる者へ」がDVD化されないのか残念でたまりません。
私は今35歳ですが、「親愛なる者へ」の作品を自分がこれから一緒にいたいと思う人ともう一度見たいと思っています。
どうか、どうか、早くDVD化されることを願っています。
by のりこ (2007-08-18 15:06) 

野沢

のりこさま
コメントありがとうございました。
確かに良い作品だと思うし、DVD化も期待したいところなのですが、
その決定をするのは、フジテレビでして・・・^^;
私がどんなにお願いしても、テレビ局とては、ビジネス的に採算が合わないと判断すれば発売しないと思われます。
専門的になってしまいますが、映像に関しての権利はテレビ局が持っていますので、野沢オフィスで勝手に発売はできないのです。
しかし、多くのファンの方の声が、テレビ局に届けば、可能性はゼロではないと思います。
是非、フジテレビのほうにメール等で要望をお伝えください。
DVD化が実現するかも知れません^^
よろしくお願いいたします。
皆さまの声こそが大きな力となります。
by 野沢 (2007-08-18 15:37) 

のりこ

わかりました!!
フジテレビに想いが伝わるように頑張ります!!
by のりこ (2007-08-21 22:58) 

rio

野沢さま♪
「映画館に、日本映画があった頃」だいぶ前に図書館で借りて読みましたが、こんな風に読み返すことが出来て、とても嬉しいです。
このブログを訪れてから読み返すと、野沢夫妻の様子も、また違った形で思い描くことが出来ますね♪
タイプ大変ですが、楽しみにしています!!
韓国と日本を行ったり来たりでお忙しそうですが、たくさん美味しい韓国料理をいただいて頑張ってくださいね♪
by rio (2007-08-29 21:24) 

野沢

rio さま
コメントありがとうございます^^
私的な部分が多くか書かれているので、少し照れますが、これも当時野沢が感じた素直な感想だと思って載せてみました。
懐かしくもあり複雑な気持ちです。
多くのファンのかたに野沢の素顔のようなものを感じてもらえたらいいかと思います。
まだ若くてトゲトゲした部分があるのですが・・・^^;
by 野沢 (2007-08-30 11:56) 

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