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映画館には通うものの、病の不安で気もそぞろ [「映画館に、日本映画があった頃」]

映画館には通うものの、病の不安で気もそぞろ

 何となくテレビ雑誌が勝手に盛りトげているフシもあるけど、水曜ドラマ戦争なるものの真っ只中に、今いる。
 こちらの『この愛に生きて』と裏のTBSドラマ、決戦の4.14まであと一週間というところだが、巷で会う人会う人がプレッシャーを掛けてくるので、ちょっとうざったい気分だ。
 脚本は終盤まで来てて、おそらく放送日の頃には最終回の第1稿に入っているだろう。
 で、病気になった。
 原囚不明の左上腹部の激痛。午前3時に我慢できなくなり、家族を大騒ぎさせるのぱ忍びなく、1人で激痛に耐えながら自転車で3分の仕事場に辿り着き、病院の診察券を侍って目の前の救急病院に向かった。
 年に3度ほどこういうことがある。その度にブスコパンという痛み止めの注射を受け、翌日には何となく回復している。しかし今回はちょっとしつこく、痛みは渋く残って3日続いた。そして血液検査の結果、白血球の数が異常に高いことが判明する。
 医師は言う。「慢性骨髄性白血病の疑いもありますから、骨髄検査を受けて下さい」
 僕は思わず聞き返す。「それは……よくテレビドラマとかで出てくるあの白血病のことですか?」
 そしたら医師は「そうです」と真面目な顔して答えるのだ、これが。
 それから検査までの一週問、検査結果が出るまでの一週問、僕は人生に悲観した。
 ちょうどその頃、ドラマについて週刊朝日の取材を受けて、「家族への遺言のつもりで脚本を書いている」とコメントしたが、実際そういう心境だった。
 検査当日、骨髄検査ほど痛い注射はない、という予備知識。ビクビクしながらお尻を丸だしにしてうつ伏せに寝る。怖い。まず麻酔を打つ。そして腰骨のあたりに針が刺さり、骨髄液を抜かれる。
 「・・・・・!」 
 とてつもなく痛い。太い針金の先で指圧されるような感じ。僕は25年ぶりに医者の前で「痛い、痛い」と泣いた。麻酔を更に打つ。どうやら麻酔が利きにくい体質らしい。あまりの痛みに下半身がが痙攣し、看護婦が僕の尻に跨がって押さえつけた。
 結果が出るまでの一週間、本屋に行けば、白血病に関する本を手にしてしまう。この病気は必ずしも不治の病ではないと分かり、少しホッとする。
 それでも家に帰って子供と遊べば、「この子の花嫁姿を俺は見れるのだろうか」と考えてしまい、目頭が熱くなる。こういう時に『マイ・ライフ』は見ない方がいい。つい8ミリビデオを自分に向けてしまいそうだ。
 今抱えている企画を広げ、遺作にはどれがふさわしいか、と真剣に考えてしまう。
 やがて結果が出る。白血病の疑いは数値を見る限りはないと言う。安堵する。
 じやあアノ痛みは何なのだッ。
 ……という顚末はニ週問間前のことだが、この原稿を書いている最中、また発作が出た。
 前回を遥かに上回る七転八倒の激痛で、その姿は、『太陽にほえろ!』に出てくる下手なチンピラ役が38口径の弾丸を腹にくらって地べたをのだうち回る姿によく似ている。
 一晩に2度も救急に駆け込む。
 それにしても、深夜の病院というのは面白い人間模様が見物できる。飲み屋の階段から転がり落ちた49歳の女が、酔っばらいの恋人に連れられ治療を受けに来ている。恋人が腹を押さえてベッドに横だわっている僕の側まできて、「先生よお、俺の頭も縫ってくれよお」と叫んでいる。先生は「出てって下さい」と押し返す。怪我した女は僕のすぐ横で「何とかしてよお!」とわめいている。とんだ修羅場に来てしまった。
 で、僕の治療が始まる。この痛みは腎臓結石のそれに似ているが、痛みは背中に響かないし、尿もきれいである。位置からして胃ではない。先生は頭をかかえる。とにかく痛みを止めるために注射を2種類。時計は午前4時半。外来が始まる4時間後まで、これで辛抱してほしいと言われる。
 ところがこの注射がまったく利かない。仕事場に戻り、窓から差し込む朝日の中、「痛い、痛い」とソフアベッドから床へと転げ回る。頭は眠たくてフラフラしているのに、激痛が睡魔を殺す。
 結局一睡もできないまま、亡霊のような姿で外来の治療を受ける。そこで自分の声が出ないことに気付く。一晩中「痛い」と叫び続けて、喉が涸れてしまったのだ。
 レントゲンを撮る。すると痛みの部分に変な影があると言われ、消化器の外来に回される。
 今度の先生は言う。腸を精密検査した方がいいと思うが、まず外堀から固めていきましょう。
 ということで毎度お馴染みの血液検査である。
 ドラマ第1回の視聴率の出る4月15日に、腹部のエコー検査を受けることになる。もし視聴率が悪かっから、検査の数字も悪いのではないか、と思ったりする。
 その結果次第ではあるけど、二週間ほど検査のための入院をした方がいいと言われる。

 ……という大騒ぎである。
 この仕事を長年してきて体をボロボロにされた諸先輩の皆さんの中て同じ症状を経験しか人がいらっしやったらお聞きしたい。
 何なの、この病気は。

 てな調子だから、映画館にいっても鑑賞眼はぼやけている。
 今回書くテーマは松竹の『シュート』にと決めていたのだけど、体調不備のまま見たものだから、的確な分析に自信がない。
 業界で数少ない友人である橋本以蔵さんが脚本だから、ちゃんとした文章を書くつもりだったんだけど。
 一言だけいわせて戴く。
 面白かった。やってることは従来のスポーツ根性モノなのだけど、主演の中居正広の二枚目半的な瓢々とした味が楽しく、90年代の体育会系映画、と言ってもいいような魅力が溢れていた。

 実を言うと、他人の仕事どころではない。
 今、虚構の世界にハマツている。
 今僕が一番見たいものは『夏の庭』でもなく『さらば、わが愛』でもなく『ミセス・ダウト』でもなく、毎週木曜の午後にテープが届く自分のドラマなのだ。
 安田成美の「そこまでやるか」的な潔さと、驚くほど安定した演技。
 岸谷五郎の優しさ。土臭い清潔感。
 豊川悦司の「いそう」な亭主象。
 この仕上がりなら、例え数字の戦争に負けたって構わない。見ないお客の方が馬鹿なのだ。
 宣伝文句的に言わせてもらうと、子宮に火をつけるようなドラマだと思う。30前後の、生活に追われた主婦たちに、忘れかけていた本能を呼び覚ますドラマではないか。
 愛が終わると言われる結婚4年目の亭主にしてみたら、決してカミさんとは見たくないけど、誰かにビデオ録画を頼んで後でこっそり見てしまい、女の内に隠された欲望に唖然とするようなドラマだと思う。
 ・・・・・・と、作者自身がこんなにハイになってしまうことを許してほしい。
 ひとえに、病の不安を誤魔化すためだから。

野沢尚著書より





2009-03-31 01:19  nice!(2)  コメント(7)  トラックバック(0) 
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コメント 7

野沢

漢さん
いつもブログを読んでいただき、nice!ありがとうございます。

by 野沢 (2009-03-31 12:33) 

アオ

ビデオで全話録画して保存しておいたのはこのドラマだけでした。
全てがよかった、すごかった。
時代を感じるのは、岸谷五朗さんのシャツの丈の長さだけでしょうか。。。
後に「魔笛」を読んで、うおおおおーと心の中で吠えました。
いつから考えておられたのか、思い入れが強かったのか。。。
安田成美さんと岸谷さんで、観たかったです。すごく。
でもそれは難しそうなので、想像しながら何度も読み返しています。
by アオ (2009-03-31 23:48) 

さんちゃん

確かに、裏番組も力を入れていましたが、わたしも
こっちのドラマを見ない人は損しているなあってずっと思っていました。

子役の男の子、かわいかったですよね。
展開は衝撃的でしたが、最終回には納得すると同時に
安田成美さんの演技には、脱帽しました。

おっとりした綺麗な奥さんなのに、
一時は無気力になり、一時は鬼のようになり、すごかったです。

魔笛はまだ読んだことがないので、また近じか読んで見ます。


by さんちゃん (2009-04-01 00:45) 

gyaro

ところどころで、「フフフ」と笑いながら読ませていただきました^^
診察券、仕事場に置いてあったのですね~。
自転車を漕いでる当時の野沢さんのお姿見てみたかったです。
病院での診察のくだり、ドラマにある場面のようで、
とても面白かったです☆
by gyaro (2009-04-06 12:22) 

野沢

アオさま

安田成美さんがとっても綺麗で生き生きしていたドラマですよね。
野沢作品の多くは女性が主人公ですが、どの女性も強くてたくましい母親のようなキャラクターが多いですよね^^

by 野沢 (2009-04-07 17:35) 

野沢

さんちゃんさん

そうですね。
安田成美さんの演技とても良かったですよね^^
母親の愛の強さと深さを感じさせてくれるドラマでしたね。
それに、女性として、夫婦として、この年代の女性が思うこと感じることも。

by 野沢 (2009-04-07 17:40) 

野沢

gyaro さん

nice!、コメントありがとうございます。
自転車こいでる写真・・・あったかも^^
何かの取材で撮っていただいた写真があったと思いますので、次回載せます^^

このエッセイを読んでると本当に懐かしくなります。
もの作りに貪欲でギラギラしていたころだったと思います。
ですから多少文章もハラハラさせられる個所もありますが^^;
でも、この当時の等身大の野沢を感じられると思うので、ファンの皆様も楽しんで読んでもらえたらと思います^^
by 野沢 (2009-04-07 17:44) 

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