映画館に休日のサラリーマン、きたる② [「映画館に、日本映画があった頃」]
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映画館に休日のサラリーマン、きたる②
脚本は4稿5稿6稿と進み、クランクインの5日前、7稿で最終決定稿となった。監督と初めて打合せをしてから、ほぼ5ヵ月の仕事であった。
根岸監督との打合せは、まるで『神のお告げ』を待つ気分に似ている。
僕やプロデユーサーたちがワイワイ議論している時、監督はいつも超然としている。時々顔色を盗み見ると、目の前の議論には興味なさそうな顔であらぬ方を見ていたりする。一向に喋ってくれる気配はない。時々、皆の沈黙の向こうから聞こえてくるのは監督の鼻唄。これが聞こえてくると、打合せはいよいよ停滞状況に入ったということだ。
僕もいい加減に開き直って、長丁場を覚悟した頃、「だけどサ……」で始まるスマートな監督のお言葉が、ついに我々の耳に届く。すると僕は「やっと喋ってくれた!」と、まずつまらないことに感激する。よく聞くと大したことを言っちやいない時でも、それが『神のお告げ』のような重厚な意見に聞こえてしまうから不思議だ。
銀座のクラブだと、ホステス相手に、ほとんど漫談家じやないかと思うほどよく喋る人なのに、打合せの席だと何故か寡黙になる。
人間・根岸吉太郎はおそらく、島耕作ほど仕事が好きではないと思う。
かたや僕は、字を書くことが好きで好きでたまらないという、まさに勤労意欲に溢れた日本人である。
監督はそういう目の前の日本人に、ひょっとしたら辟易していたのかもしれない。
>>続く
2008-01-28 10:14
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