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the moon in a fury [小説]

今回レビューを書くにあたり、どの作品が良いかと話し合いこの烈火の月に決めましたが、正直私はあまり気乗りがしませんでした。

実はこの烈火の月は私にとって苦手な作品でした。それはあまりに描写がハードで、当時の私には理解も共感もできなと思ったからでした。どうしても人が死んでいく描写や性的な描写に抵抗感があって・・・。

この烈火の月が発売になり、野沢から「ちょっと苦手かも知れないけど・・・」と言って渡されたときに、ざっと読んで当たり障りのない褒め言葉で終わらせてしまったことを今も後悔しています。いつだって読み返せるし、いつだって感想言えるって思っていたから・・・。この本の発売5ヵ月後にもう二度と感想を言えなくなるなと分かっていたらどんなに苦手だと思っても一生懸命に読んで感想言ってあげたかったです。そして主人公の我妻諒介に対してどうしても分からないところを聞いてみたかったです。ただただ残念です。

レビューを書くために改めて読み直してみました。数日間をかけて読ませていただきましたが、やはり今の私が読んでもハードすぎる内容でしたが、一言一句大切にしっかりと読みました。もしかしたら、読み手としてはまだまだかも知れませんが、今の私が思って感じたことを書かせていただきました。

 第一章のオープニングで強烈なキャラクターの主人公、我妻諒介が登場しますが、微笑みながら正体ないまでに人を痛めつける凶暴な人物。どうして彼をそこまで凶暴にしているのか・・・。私にはまだ十分に理解できていませが・・・。我妻は急激な人口増加で犯罪多発地区として認定された千葉県愛高市(架空の市)の刑事。過剰なまでの暴力とルール無視の捜査で犯人を検挙しているが、犯罪は一向に減らず雨後の竹の子のようにつぎつぎと発生する。同署の刑事や警察官からは浮いた存在になっていた。そんなある日、徳吉克巳という麻薬の売人が殺害され、その犯人を捕まえるべくおとり捜査に出た我妻は、同じ目的の人物を探す麻薬取締官(マトリ)、烏丸瑛子と出会う。どこか似たところのある2人だった。売人徳吉の死はこの物語のプロローグに過ぎなかった。徳吉の死をきっかけに、犯人に迫ろうとするたびにトカゲの尻尾きりのように、多くの人間が謎の死をとげる。我妻も烏丸も共に押しつぶされそうなほど巨大な権力を持った敵と戦っていく。

最後に烏丸瑛子が決断したことは本当に正しかったのか・・・。すぐには理解できませんでした。ただ、もしこんな決断ができたらすごいなと思いました。と同時に私だったらどうだろうと考えてしまいました。きっと私はそこまでの根性はないかもしれません。でも、烏丸瑛子だったらきっとこの決断が正しかったと証明できる人生を送ることでしょう。この作品で野沢が言いたかったことは烏丸瑛子があえて苦しい道を選び生きていこうとする姿を通して、人はどんなことがあっても、どんなに辛くても、頑張って生きていかなくてはいけないということを言いたかったのだと思います。我妻諒介の決断も決して楽なものではないけど、それでも、頑張って生きていくしかないのでしょう。人は誰一人として一点の曇りもない人生なんて送っていないのだと思います。私を含め、みんな何かしらの辛さや悲しみを抱えて生きているのだと思います。でも、人はどんなに辛い人生でも頑張って自分の人生を生きないといけないと思います。いつもそう言っていた野沢自身の行動はいまだに信じられません。

今回烈火の月を新たに読み直してみて感じたのは、ものすごくたくさんの取材をしたのだろうということでした。以前はそんなことを考えもしないで読んでいました。例えば警察のシステムや拳銃の種類、その取り扱いや実際に使ったときの状況に関する細かな情報、また麻薬の種類、薬物によってどういった症状になるか、体験した人の感覚までも。それに人の体はどの様に朽ち果て死に向かっていくのかなど、見てきたかのようにリアルに書かれていました。本当に細かく丁寧に取材して勉強し書き上げたものだと思いました。実際資料として残っているものもたくさんありました。脚本を書くときにもそうなのですが、登場人物を細かく描き、まるで実在の人物かのように錯覚をしてしまうほどです。

最後に大袈裟かもしれませんが、この烈火の月は今の日本を象徴しているように感じました。最近テレビのニュースや新聞でも、凶暴な事件や異常な犯罪が多く、どうしてしまったのだろうと思うことがあります。一部であると思いますが、子供の手本となるべき大人たちも堕落し、分からなかったら何をしてもいいといったずるさや、自分さえ良ければいいといった感覚が蔓延しているように思います。自分の良心はどうしてしまったのでしょうか・・・。
みんな何となく感じている閉塞感や将来への漠然とした不安感はありませんか?
私が幼かった頃の日本はまだ将来への希望もあったように思います。
今の子供たちにとっての希望は何なのでしょうか・・・。
やはり今の日本は少し病んでいるように感じるのは私だけでしょうか。

この作品を読んで下さった皆さまに・・・。ちょっと青臭いかも知れませんが、人生どんなに辛いことがあっても必ず乗り越えられるしきっとそれと同じくらいの幸せがあると信じて輝いた人生を過ごして欲しいと願っています。

             

 

 

 

烈火の月―THE MOON IN A FURY

烈火の月―THE MOON IN A FURY

  • 作者: 野沢 尚
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2003/12
  • メディア: 単行本

 


2006-11-30 07:23  nice!(0)  コメント(4)  トラックバック(0) 
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コメント 4

柳

読んで見たい作品ですね...恋愛時代とは非常に違う感じです.
by 柳 (2006-12-01 20:46) 

がっさわら

『烈火の月』は、野沢作品としてはめずらしく「ある一線を越えてしまった」小説ですね。特に女性が読むには辛い作品です。
おそらく、深作欣二監督と、ビートたけし(北野武)という、べらぼうに強烈なキャラクターに影響、もしくは対抗する気持ちがあったのではないでしょうか。
『その男、凶暴につき』が北野武初監督作品として高い評価を受け、脚本に携わった者として「悔しいが、これは傑作だ」と野沢氏自身が認めざるを得ない以上、小説化するには、今までぎりぎり「ある段階」に留めていた暴力表現の一線を越えざるを得なかったのだと思います。
by がっさわら (2006-12-02 18:16) 

野沢

柳さん
コメントありがとうございます^^
そうですね。作風は全然違います。
野沢のように全然違う作品を書く作家は少ないのではないかと
思います。
日本語ですがお読みいただけたら幸いです^^
by 野沢 (2006-12-31 14:57) 

野沢

がっさわらさん
そうですね。確かにそういった部分もあったでしょうね・・・
この本の後書きに、深作監督への思い、北野監督の才能への驚き
などが書かれています。
是非ご一読くださいませ。
by 野沢 (2006-12-31 15:00) 

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