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「水曜日の情事」シナリオ集あとがきより [小説]

先週まで「水曜日の情事」が再放送され連日多くの皆様にサイトをご訪問いただきました。ありがとうございました。多い日には1万ヒット以上の訪問もあり、サイトを開いて以来の反響に驚いています。
さて、コメントにも書いてくださった方がいらっしゃいましたが、「水曜日の情事」シナリオ本があるのですが、そのあとがきに書かれていました文を数回に分けてご紹介したいと思います。

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<あとがき>
 3年間で29人。
 何の数字かお分かりになるだろうか。
 答えは、僕が殺した人間の数。
 「眠れる森」「氷の世界」「喪服のランデブー」 「リミット」というこの3年間で書いたミステリードラマで死んだ登場人物、その合計だ。
 刺殺ヽ射殺ヽ毒殺ヽ轢き逃げ、溺死に見せかけた殺人、果ては臓器の売買までやってしまった。悪事の限りを尽くした、という感じだ。
 そろそろまっとうな人間に戻ろう、と思った。
 かつては「親愛なる者へ」「素晴らしきかな人生」「恋人よ」という恋愛ドラマを書いてきた人間ではないか。(まあ、その中でも結構残酷なことはやってきたけど……)。
 最後まで1人も死なないドラマを次は書かなくてはならない、と自分に課して構想を始めたのが今回のドラマだった。
 ところが書いていくうちに思った。
 平均7人の登場人物を殺してきたこれまでのドラマより、1人も死なないこの「水曜日の情事」の方が実は遥かに怖いドラマではないか・・・・・・。

 最初にスタッフに渡したプロットに、こんな企画意図を書いた。
世にも恐ろしい愛人の存在が、男の日常を根底から揺さぶる。そして、実は愛人よりも遥かに恐ろしかった妻の存在が、男の人生を想像もしなかった第二章に導く。 
男はどうやら、あまたの女たちの手の内で転がされ、育てられるようだ。
女は母胎の中だけでなく、人間を育てることのできる生き物らしい。
これは地球人(男)とエイリアン(妻と愛人)の戦いを描く物語である。
とにかく怖い。そして笑える。
微糖でブラックな昧わいの、スウィート・コメディである。

周りの反応――――友人、他局のプロデューサー、文壇バーのママ、放送評論家、番組ホームページに書き込んでくれる人たち、近所のクリーニング屋のおばちゃん――――といった方々の声を聞くにつけ、作者の最初の方針はどうやら達成できたんじゃないだろうか、と思っている。
 しかし、だ。
 今年の秋は、テレビドラマ界にとっては受難の季節となった。
 アメリカとアフガニスタンが被った受難とは比較にはならないだろうが、とにかく現実社会の激しさの前では、虚構の世界は人々に夢や希望を与えるという本来の機能を失ってしまった。
 地下鉄サリン事件の年も出版不況、ドラマ離れという状況があった。現実社会が血生臭くなる時、人々はそこから目を離すことができない。まず、9時のニュースを見る。10時のニュースを見る。ドラマどころではないのだ。視聴者の気持ちは実によく理解できる。
 あの同時多発テロの日、僕はすでに「水曜日の情事」を7話まで書き終えていた。その先の波瀾万丈のストーリーはもちろん決まっていたけど、何やら色褪せて思えたものだ。
 それでも、物語の力を信じようと思った。妻と愛人の間で右往左往する男の物語が世界平和のために役立つとはあまり思えなかったけど、僕はとにかく結末の「ふくよかな幸福感」を目指してひた走った。

 振り返ってみると、今回の仕事ほど脚本作りがスムーズに進んだ例は過去にない。番組が放送開始になる頃には、すでに全11話を書き終えて、仕事場に届く完成VTRを楽しみに待つだけだった。
 詠一郎の受難を書くのが楽しくてしょうがなかった。操によってシチューの中に結婚指輪を落とされた回は、爆笑しながら書いていた。
 結婚記念日と愛人の誕生日が同じで、「どっちを立てるべきか」と詠一郎が悩む回では、「どっちも成立させるんだよ!」と士気を鼓舞してやったものだ。そのお蔭で彼は愛欲の深みにはまってしまった。かわいそうに。
 前回耕作も愛すべきキャラクターだだった。あの作家の3分の1は僕自身だ。自己愛の極致。常に「お前は天才だ」と言い聞かせながら孤独な密室作業を続ける作家という人種。ただし、僕は彼ほど純粋ではないし真面目でもないし、連続20万部のベストセラーは出していない。文壇は僕に温かいけど、出版不況は僕に厳しい。
 佐倉あい。天地燥。こんな女たちが本当に身近にいたらどうしようかと思った。
 「今、あなた、わたしのこと透視してるでしよ」
 言われてみたいと思った。
 「そういうフカフカしかあったかい人生、あなたなしで見つけるから」
 言われたらどうしようかと思った。

 脚本制作現場の裏話をひとつ、お教えしよう。
 ラストシーンには別バージョンがあった。
 円形劇場のような再会の場から、詠一郎とあいと操が去っていく。
 あいは耕作と結ばれ、子供がいる。
 操にも年下の男との幸せな結婚生活か待っている。
 振り返らない約束だったのに、詠一郎は立ち止まり、元妻と元愛人を振り返ってしまった。
 「さようなら、女たち」
 と呟きかけた時、後ろから「それ、私にも言ってるの」と声がする。
 志麻子だ。不思議と水商売の匂いのしない、昼の光の中の志麻子が、丘の上で詠一郎を待っていた。
 「迎えに来てくれたんだ……行こうか」
 志麻子と仲良く手をつなぎ、円形劇場を後にする。
 詠一郎と志麻子を結びつけるというこのエンディングは、僕と永山ディレクターが木村多江さん演じる志麻子にクラクラきていたせいで出来上がったのだが、女性スタッフにはすごぶる評判が悪かった。 詠一郎を幸せにさせてはならん、と言うのだ。
 軽いフットワークで妻と愛人の間を行ったり来たりしていた詠一郎という男。結婚式で2人の女から捨てられるというだけでは「償い」にはなっていない、文壇バーのママと一緒にさせるなど言語道断、というわけだ。
 これが世の女性視聴者の一般的心理、と見た。
 男はゼロからのスタート、という最初のプロット通りの結末に落ち着いた。「男の出発(たびだち)」というト書きで詠一郎を送り出してやることにした。
 

つづく


2009-06-02 14:48  nice!(5)  コメント(9)  トラックバック(0) 
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gyaro

あとがきについての感想。
ひとつ前の記事で書いてしまいました。すいません。。。^^;
1万ヒットですか!?
物凄い反響ですね~♪ DVD化される事を心より願っております♪。

あ、それともうご存知でしたら恐縮ですが、
日テレプラスで、「リミット」の再放送が始まるようですね♪
http://www.nitteleplus.com/program/drama/limit.html
私はCS見れないので残念なのですが、
友人に頼んで録画してもらおうと思ってます♪
by gyaro (2009-06-02 16:14) 

野沢

gyaro さん
いいえ「あとがき」のことすっかり忘れていて、書き込みを見て本をさがしました^^; 逆にお礼を言わなくてはなりません。
お知らせいただいたおかげで、皆様にも内容をご紹介できました^^
(それと、読んで気がついたこともあってよかったです・・・^^;)

「リミット」のことは知らなかったです。
お知らせはまったく無かったので・・・とういかない場合の方が多いです。フジテレビさんは基本的にはお知らせくださいます。(他局は作家協会へお知らせしてるのかも知れないですね・・・たぶん?)

「リミット」情報ありがとうございました。
過去にも「再放送があったのに知らなくて見れなかった・・・」といった声もありますので、視聴できる方が限られてしまうかも知れませんが、このサイトでも告知していきたいと思います。
ありがとうございました^^



by 野沢 (2009-06-02 16:43) 

野沢

チビさん
nice!ありがとうございます。
by 野沢 (2009-06-02 23:41) 

野沢

コーンさん
nice!ありがとうございます。
by 野沢 (2009-06-02 23:42) 

野沢

漢さん
nice!ありがとうございます。
たまにはコメントもお願いできたらうれしいです。
by 野沢 (2009-06-08 18:49) 

J

前に見たときは、ずいぶん大人の話だなぁ~なんて感じで見てたけど、、、再放送見て、どっちつかずの男とか 強がっちゃう女を、、、自分に当てはめちゃったりして、切なくなりました。あ~いう結果で安心しました。
今日も、キャンディーレイン聞きながら物語に浸ってましたよー
by J (2009-06-21 18:16) 

野沢

Jさん
再放送のご視聴いただきありがとうございました。
自分自身の年齢や環境によっても違った目線で見ることができますよね^^
度々再放送してくださるといいですよね^^

by 野沢 (2009-06-21 21:13) 

Kayo

水曜日の情事、山陰では今放送中です。あと数回で終盤を迎えます。リアルタイムでもドキドキしながら楽しみに見ていましたが、あの頃の私は二十歳過ぎ。今では私も結婚して、登場人物と近い年になり前とは違う見方になりました。仕事をしているので、毎日録画し、二回繰り返し見るほどはまっています。本当に人気のあるドラマなのに、なぜDVDにならないのでしょうか?永く手元に持っていたい作品です。又、登場人物の名前もそれぞれ素敵ですね。
by Kayo (2009-07-06 00:19) 

野沢

Kayoさん
コメントありがとうございます。
今山陰地方で放送なんですね。
知らなくてごめんなさい。
でも、「水曜日の情事」のタイトルのヒット数が多かったので、きっとどこかで再放送されてるのかな~と思っていました^^
楽しんでご覧いただいてるようで、とても嬉しです。
今回は編集で短くなってるようなので、オリジナル版でDVDになるといいですよね~^^

by 野沢 (2009-07-07 17:19) 

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